額田女王

2006年1月8日(日)

年末帰省した時、実家の本棚から取り出して久しぶりに読みました。井上靖の小説で、昔から何度も読んでいる一冊です。

物語は、中大兄皇子と中臣鎌足が蘇我入鹿を斬った『乙巳の変』後の大化の改新と同時に始まります。
 ざっくりとした内容は、万葉の歌人・額田姫王と中大兄皇子(天智天皇)、大海人皇子(天武天皇)兄弟の三角関係を中心に描かれた歴史小説です。粗筋を纏めるのは苦手なので、興味を持たれた方は、検索してみてください。
 しかし、これは一辺倒な歴史を題材にした恋愛物語ではなく、当時起きていた歴史的事件を「額田姫王」という歌人を借り、その目を通して語っている側面もあります。政治物語として、時の為政者であった二人の兄弟皇子の姿が独特な視点で描かれています。
 朝鮮半島出兵前後と壬申の乱前後は、この物語の中でも特に好きな部分で、「熟田津に 船乗りせむと 月待てば 潮もかなひぬ 今は榜ぎ出でな」と額田姫王が詠んだ朝鮮半島出兵は、前半部のクライマックスになっています。
 物語の中に自然と溶け込んでくる短歌も心地よく、文章のしらべも井上靖独特の艶と透明感があり、良い音楽を聴くのと同じ感覚で読むことができます。また、この物語から得られるものは多く、自分が弱くなりそうな時や新しい環境に立った時、力をもらうことが出来ます。なので、何回でも読めるんだろうなぁ。

日本は、権力者が変わるとそれまでの時代を表すものが失われてきた経緯があり、世界的な歴史のスケールで見ればそれ程古い時代の話では無いにも関わらず、当時を知ることの出来る資料に乏しいのが現状です。もっとも私は、時代考証とか歴史的な物証にはあまり興味はありません。どんなに信憑性のあるものが発見されたとて、その時代を完全に再現させることは不可能ですし、その時代に生きた人が実際にどうあったかなど知る由もありません。なので、歴史に忠実な話よりも、むしろその時代を題材にしてイメージを広げた物語の方が好きなのですが。その点で、井上靖の小説は自分にピッタリ合ったりします。

投稿者 なおか : 04:23 | 8.本

トラックバック

コメント

(c)copyright 2004-2006 naoka [www.naoka.com] all rights reserved.